「電通」という社名は、産業メンタルヘルスに携わる者として、特別な響きがあります。
1991年にも、入社2年目の男性社員が、長時間労働の末うつ病を発症し自死に至った、世にいう「電通事件」というものがあったのです。
(こちらに詳しく掲載されています。)
その最高裁判決により、電通はご遺族に対し、再発予防策を徹底する約束をしたはずなのです。
なのに、またしても2015年12月に新人女性社員が自死され、この10月、それが精神障害による労災認定をされるということに至りました。
(一応同社は、ホームページのCSR情報の中で、健康管理体制としてメンタルヘルス対策を強化していると記しています。)
電通事件も25年前の出来事となってしまいましたが、当時一緒に働いていた同世代の人たちが、今、管理監督者になっているはずなのですが、どれくらいの人が、この時のことを胸に刻んでいたんでしょうか。
報道されている情報から想像するしかありませんが、過労死ラインを超えた長時間残業では、心身の疲労も極限に達し、パフォーマンスが出るはずもありません。
その上、周囲からの突き刺さるような言葉は、どれほどのインパクトがあるのか…。
本来なら上司の役割は、深夜の反省会などを開いている先輩社員に対し、ご法度だと厳しく指導することです。
そして、この女性をサポートし、育成する役割です。
私も仕事柄、管理職が部下の仕事の出来に関わる悩み事を抱えることはよく知っています。
期待通りに成果を上げてもらえないということは、自分の指導法への自信もなくなり、手を尽くしてもダメなのでイライラとの付き合いもしんどく、ほんとうに深刻な悩みになります。
管理職のストレスも相当であることはわかっています。
その上で言いますが、上司本人が「君の残業時間は会社にとって無駄」と発言するのは、どういう文脈だとしても、感情に振り回されているみっともない状況です。これを言ったら負けです。
また、「女子力がない」などという発言は、性差別であり、自分で自分の品格のなさを露呈していることになるのです。
「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」・・・おかしいですね。
確かホームページによれば、電通では、管理職に対するメンタルヘルス研修を必須としているはず。
だったら、身だしなみが乱れ、目が充血しているのは、部下のメンタルヘルス不調のサインであると上司が気付かなければいけない状態です。
第5条に「取組んだら放すな! 殺されても放すな! 目的を完遂するまでは...」とありますが、まさか文字通り受け止めていることはないでしょう。
しかし、職場風土へは、伝統的に影響があった可能性があります。
職場のメンタルヘルスの問題には、職場風土の要因、その中でも、上司の人柄やリーダーシップ、マネジメントスタイルが大きく関係します。
この上司も、モデルとなるような良い上司との出会いがなかったのかもしれませんね。
上司が、部下にとって、資源として機能するかしないかが、ハードワークの中でも、心の健康を保てるかどうか、仕事を通じた成長になるかどうか、その後のモチベーションになるかを左右します。
どんなに大変な仕事でも、上司からの応援があったり、ちょっとした差し入れで元気が出たり、上司の関わり方で力がみなぎった経験のある方も多いのではないでしょうか。
そのように上司が機能してくれていたら、この女性も自ら命を絶つようなことはせずに済んだように思います。
なんとか、防止することができたと思うと残念でならないし、お母様のお気持ちを想像すると、やり切れない気持ちになります。
この件、川人博弁護士が担当されているようです。
今後、訴訟になった時、企業だけでなく上司個人も、安全配慮義務違反となるでしょう。